2014年11月14日

対の連なり・光と影が、かけがえのない物語を紡ぎ出す (スコット・クーパー監督「ファーナス 訣別の朝」

対の連なり・光と影が、かけがえのない物語を紡ぎ出す (スコット・クーパー監督「ファーナス 訣別の朝」)

大切なもの全てを奪われながらも、筋を貫く男の話。
文字にすると、身も蓋もない。しかし、これが実に至福の2時間弱。とにかく、映像が深い。そして、悲しいほどに美しい。
この映画を面白くしているのは、似て非なる、AとBの対比だ。堅実な兄と地に足がつかない弟、看る者と看られる者、鉄鋼所での仕事と刑務所での作業、収監された兄と戦地へ赴く弟、愛を乞う者と拒む者…。様々なAとBが重なり、すれ違い、入れ替わり、物語を紡いでいく。刑務所で語らう兄弟は、どちらが収監されたのかわからないほどに囚われている。愛を乞う者も拒む者は、それぞれに代え難い悲しみに沈む。また、繰り返し描かれる、車の運転席と助手席という横並びの関係も印象的だ。そして、血みどろの拳闘と清廉な鹿狩りの並行展開が、物語を第一の高みへグイグイと導いていく。
後半は、フレームの連なり、光と影の対比が忘れ難い。小さな窓から覗きこむようにカメラが展開し、遠景から物語を捉える。あたかも、安易な共感や同情を拒むように。全てを飲み込むような重い夜が、じわじわと明けていく。穏やかな光に包まれた朝に、物語は第二の高みに至る。
そして、再び闇。漆黒の中から、うつむいた彼の姿が、輪郭のみ浮かび上がる。抑えた感情があふれ出すような、静かな凄み。何も見えないはずの暗闇を、ひたすら凝視した。これほどに納得のいくラストシーンは、なかなかお目にかかれない。
今年の映画…を思うこの時期、幸運にも忘れ難い一本に出会えた。

cma

〜〜〜
「ファーナス 訣別の朝」Out of the Furnace、2013年、アメリカ
監督:スコット・クーパー
製作:リドリー・スコット、マイケル・コスティガン、ライアン・カバナー、ジェニファー・デイビソン・キローラン、レオナルド・ディカプリオ
脚本:ブラッド・インゲルスビー、スコット・クーパー
撮影:マサノブ・タカヤナギ
出演:クリスチャン・ベール、ウッディ・ハレルソン、ケイシー・アフレック、フォレスト・ウィテカー、ウィレム・デフォー、ゾーイ・サルダナ、サム・シェパード







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2014年10月12日

映画は語りかける(クリント・イーストウッド監督『ジャージー・ボーイズ』)

映画は語りかける(クリント・イーストウッド監督『ジャージー・ボーイズ』)

おもむろに、登場人物がこちらを向き、語りかける。ああ、こういうたぐいの映画か、懐かしいな、と思った。ナレーションやモノローグがわりに、主人公が時折こちらに向き直り語りかける、という手法。ときに斬新であるけれど、興ざめにもなる。今回は、これがとても成功していると感じた。その理由は何だろう、と観終えてからここ数日、つらつらと考えている。
音楽を武器に、世界へ羽ばたこうとした若者たちの栄光と挫折。決して目新しい素材ではないし、殊更に波乱万丈な描き方もしていない。二時間超の長丁場を、一人の役者が若さと老いを演じきる。いつの間にかお腹が出ていたり、髪が薄くなっていたり、老眼鏡をかけていたり…。けれどもむしろ、歳を重ねても中身は変わらず、いつまでも悩める・夢を見続けるちいさき存在である、という印象が強かった。
そんななだらかな物語に、時折ドラチックなセリフが散りばめられる。彼らの言葉は青くさいほどまっすぐで、時にしびれるほどカッコいい。そして光るのは、クリストファー・ウォーケンの存在感。エンドロールのダンスシーンまでにこりともせず、渋さを貫いていた。
さて、改めてスクリーンから語りかけることについて。彼らは、観客である私たちに語りかけているのだろうか。少なくとも、本作では異なるように思う。彼らの眼差しは、もっと遠くにある。映写室から射す光の向こう…そこには、かつての仲間たち、そして自分自身がいるのではないか。
映画を観るというのは、実はとても孤独な行動だ。ひとつの場所に集っていても、人々は向き合い視線を交わすことなく、ただ一方を向いている。同じ時に笑い、泣くことはあるけれど、その中身までは分からないし、むしろ周りとの「ずれ」に違和感を感じる方が多いかもしれない。けれどもそんな違和感や孤独は、生活の中でも日々感じることであり、近しいひとの間でさえも・近しい間柄だからこそ、感じるようにも思う。だからこそ、繋がり、すれ違い、再び集う彼らに、不思議な親近感を抱き、引き込まれずにいられない。そんな彼らの語りかけは、絶妙な距離感で、観る者の心に沁みていく。
人生は、振り返りと気づき、そして再発見の連続だ。紆余曲折を辿った彼らと時間を共有できたことに、しみじみと感謝したくなった。今もなお、身体の中でフォーシーズンズのハーモニーが鳴り響き、気がつくと彼らのメロディーを口ずさんでいる。ほろ苦い幸せは、どこまでも色褪せない。

cma

〜〜〜

『ジャージー・ボーイズ』Jersey Boys、2014、アメリカ
監督・制作:クリント・イーストウッド
脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
出演:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、ビンセント・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン




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2014年08月09日

ありそでなかった、私立探偵のバディ?ムービー!(オキサイド?パン監督「コンスピレーター 謀略 極限探

ありそでなかった、私立探偵のバディ•ムービー!(オキサイド•パン監督「コンスピレーター 謀略 極限探偵A+」)

時間の関係で、シリーズ第三作からの鑑賞。…でしたが、十分楽しめました! 主人公の「極限探偵」のいわれは最後までよく分かりませんでしたが、そんなことは問題なし。何より、タイに住む主人公がマレーシアの探偵と出会い、探偵ふたりが一緒に事件を解決していく、という設定が新鮮でした。刑事のバディものはよくありますが、組織に属さない、元来一匹狼であるはずの探偵が手を組む。一筋縄でいかない者同士、駆け引きが小気味よくスリリングです。そして、ユーモアも適度に。いさかいの末に「浮気調査でもやってろ!」の捨てゼリフ、さすが同業、勘どころを抑えてる!と笑ってしまいました。そして、しっかり傷つくニック•チョン…。「エグザイル/絆」はじめ、これまではクールで捉えどころがない、何を考えているが分からない(鹿のように黒目の部分が多い)役柄が多かった彼が、本作ではとぼけたいい味を出しています。灼熱の南国で、探偵っぽさを演出するためなのか、細身スーツで葉巻をスパスパ。そのくせ、汗をかいてる気配なし! さらには、香港映画お約束?の御都合主義な「双子」役もご愛敬。かいがいしく楽しそうに演じていて、思わずクスリとしてしまいました。彼のお陰で、一本立ちだと時にアツ過ぎ、暴走しかねないアーロン•クォックの持ち味も十二分に活かされている、と感じました。
謎とき、アクション、ユーモアのバランスが絶妙。前二つも是非観たいと思わせる快作でした。これだから、香港映画はやめられません!

cma

〜〜〜
「コンスピレーター 謀略 極限探偵A+」同謀 Conspirators、2013年
、香港
監督•製作•脚本:オキサイド・パン
出演:アーロン・クォック、ニック・チョン、チアン・イーヤン、チェン・クアンタイ



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2014年07月26日

「カーズ×プレーンズ+グランド?ブタペスト?ホテル?」(「プレーンズ2 ファイヤー&レスキュー」)

「カーズ×プレーンズ+グランド•ブタペスト•ホテル⁈」(「プレーンズ2 ファイヤー&レスキュー」)

もうすぐ3歳になるこどものリクエストで鑑賞。「2」でいきなり大人好みのひねりを入れ過ぎた「カーズ」の二の舞か…という不安はあっさり払拭されました。「グランド•ブタペスト•ホテル」を彷彿とさせるゴージャスなロッジホテルが山火事に遭遇、お客様を救え!というシンプルかつ手に汗握るストーリー。激流や炎の描写がなかなかリアルで泣き出す子もいましたが、わが子はすっかり夢中。まばたきを忘れたかのように引き込まれ、「おもしろかった、ねー!」と大満足でした。
クライマックスに至るまでのストーリーもなかなかです。レーサーになったはずのダスティが、なぜレスキュー隊に入るのか? 華やかな世界から後退を余儀無くされ、戸惑いもがく姿に、ケガに苦しむスポーツ選手の姿がかぶりました。たとえケガはしなくても、年齢という壁は避けられません。第二の人生をどう迎えるのか、望まない転機をどう乗り越えるのか、華やかな世界が全てなのか…ということをいやみなくさりげなく語り、オトナの心もじわじわと掴んでくれました。(ダスティはもともと農薬散布機であり、農薬の代わりに水を撒けば消火活動ができる!という展開もうまいなあと感心。これを念頭にキャラクター設定していたのでしょうか…。)
さらに、脇をかためる飛行機&クルマたちも個性豊か。生き生きと物語を彩り、盛り上げます。特に、ネイティブ風の寡黙なウィンドリフターのクールさ&茶目っ気にしびれました。
ホテルのお客=たくさんの様々なクルマ!というわけで、「カーズ」「プレーンズ」が一度に楽しめるような本作。火あり水あり風もあり…のダイナミックなレスキューシーンを存分に味わうなら、ぜひ大きなスクリーンで! オトナにもこどもにもオススメです。今回は吹き替えでしたが、エド•ハリスも参加しているオリジナル版も観てみたいなと思いました。

cma

〜〜〜
「プレーンズ2 ファイアー&レスキュー」Planes: Fire & Rescue、2014年、アメリカ
監督:ボブス・ガナウェイ
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ジェフリー・M・ハワード
出演:デイン・クック、ジュリー・ボーウェン、コリー・イングリッシュ、エド・ハリス
瑛太、近藤春菜、箕輪はるか


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2014年04月20日

3人の子役、タテとヨコ(豊田利晃監督「クローズEXPLODE」)

3人の子役、タテとヨコ(豊田利晃監督「クローズEXPLODE」)

生意気ながら、「豊田監督、どこへ行く」と思っていたここ数年…本作でようやくホッとしました。撮りたいものを撮りつつも、観る者を振り落とし過ぎず、何これ?面白いかも!と思わせるさじ加減がなかなか。クレジットに脚本=向井康介さんの名前を見つけ、おっ!と思いました。
明らかに二十代、タバコも酒も似合い過ぎのおっさんになりかけた若者たちが、学ランを着てケンカしまくる…これは当然、壮大なフィクションです。やべ演じる完全なおっさん•片桐が言うように、鈴蘭は、何でもありの遊び場。失われた場所だからこそ、存分に暴れ回れるのかもしれません。
粗々しくツッコミどころもありますが、細部がしっかり効いているなと感じました。特に、3人の子役(テッペンをめざす2人のかつての姿と、中古車販売店の子ども)とやべ演じる片桐。片桐の視点が、若者たちの過去と未来、物語の過去と未来…を巧みにつなぎます。そして、タテとヨコの対比のおもしろさ。背丈のある東出演じる鏑木が、画面中央に立ちはだかり、延々と平行移動していく画は、それだけで魅せるものがありました!
重箱の隅をつついてあれこれとやかく言わず、素直に楽しんでほしい作品です。

cma
〜〜〜
「クローズEXPLODE」2014年、日本
監督:豊田利晃
原作:高橋ヒロシ
脚本:向井康介、水島力也、長谷川隆
出演:東出昌大、早乙女太一、勝地涼、奥野瑛太、深水元基、やべきょうすけ、高橋努、浅見れいな、高岡早紀、板尾創路、永山絢斗、柳楽優弥
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2014年03月13日

旅立ちの春、震災の春(清水崇監督「魔女の宅急便」)

旅立ちの春、震災の春(清水崇監督「魔女の宅急便」)

そうそう、こんな感じだった。数十年前に手にした美しい本、「魔女の宅急便」は…! 原作への想いがみずみずしく蘇り、文字から思い描いていた世界が、伸びやかに目の前へ広がっていくことにワクワクした。海辺の街の雰囲気、登場人物たちの服装や佇まい…どこを取っても予想どおり、期待どおり。ずんずんと嬉しくなった。
…と、原作の記憶に浸っていたら、突然、震災の記憶がよぎった。軌道に乗り始めたキキの宅配業は、思いもよらぬところから行き詰まる。人々の態度は一変し、「魔女の呪い」を怖れ、キキが届けた品物を手放そうとやっきになる。うず高く積み上げられた返品の山を見たとき、ふっと「風評被害」という言葉が頭に浮かび、舌がしびれるほどの苦味が、口いっぱいに広がるような感覚をおぼえた。
根拠がない、合理性もない、それなのに拭い去れない歪んだ不安感。人はなんて弱くて、ちっぽけなんだろう。キキを珍しがり、魔法を都合良く使うことにばかり気持ちを向ける人々…。キキは気づかぬままに彼らに振り回され、舞い上がり、傷ついてしまう。
けれども一方で、人は可能性のかたまりであり、理不尽なあれこれを乗り越える、大らかな力を持っている。そんな部分をも、本作は気負いなく、さりげなく描き出す。無口なパン職人、マイペースな獣医など、ろくにセリフがなくても、愛すべき人となりがうかがえる人々があちこちに登場。ふんわりと言葉に頼らない余韻を残す。山本さんも浅野さんも、素晴らしい俳優さんだなと改めて感じた。
旅立ちと新生活の春、そして震災の春にふさわしい作品だ。

cma

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「魔女の宅急便」2014年、日本
監督:清水崇
原作:角野栄子
脚本:奥寺佐渡子、清水崇
音楽:岩代太郎
出演:小芝風花、尾野真千子、広田亮平、山本浩司、新井浩文、吉田羊、浅野忠信、筒井道隆、宮沢りえ
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2014年02月13日

踏み出せ!飛び出せ! (ポン?ジュノ監督「スノーピアサー」)

踏み出せ!飛び出せ! (ポン•ジュノ監督「スノーピアサー」)
スノーピアサーの「ピアサー」は、耳にピアス、のpierce。辞書を引いてみると、色々な意味がある。穴を開ける、突き刺す、突破する、突き進む、見抜く、洞察する…。ナルホド。原題そのままのカタカナ邦題なんて…と思ったが、これを超えるものは難しかったかもしれない。とはいえ、映画の魅力をダイレクトに伝える力は弱い。もどかしい。うーん…それはさておき。
とにかく贅沢なキャスト。ソン•ガンホにコ•アソン、『グエムル』のコンビ再び、が何といっても堪らない。ジェイミー•ベルの一途さや、オクタビア•スペンサーの肝っ玉母さんぶりも目を引く。ティルダ•スウィントンの怪演は言わずもがな。一方…正直、主役であろうクリス•エヴァンスは、前半ピンとこなかった。けれども、中盤の「世界最後の煙草」を吹かしながらのガンホとの会話で、印象はガラリと一変。なぜ彼は、リーダーらしく振舞おうとせず、どこかいじけたような態度でくすぶっていたのか。彼の抱える闇に、息を呑んだ。
最大の敵は、自分。自分の弱さ、ずるさ…。直視するにはおぞまし過ぎるが、そこから逃れることは出来ないのだ。また、理想のリーダーや絶対的な拠り所を探し求めても、そんなものは存在しない。本作は、非力を知りながらも、一歩踏み出すことの痛みと強さを、極寒の空気の中でじりじりとあぶり出していく。
そんな重たいテーマを扱っているとはいえ、やはりポン•ジュノ監督作品。ピリリとしたユーモアがしっかり効いている。様々な言語と文化が飛び交う車内、限定営業の寿司バー、明るく楽しく元気のよい教育の歪み、兵隊より侮れない薬物依存者たちのパワーなどなど…思わずクスリとしてしまうが、同時に背筋が寒くもなる。加えて、こんにゃくのようなプロテインタブレット、見聞きしたもの全てを活写する絵描き、車内でもてはやされる薬物など、さりげなく登場するアイテムの伏線が、後半ピリリと効いてくるところも巧い。
弱者たちが団結して革命を果たすことこそ勝利…と思いきや。物語は粗野にして美しい、壮大な結末へ着地する。がむしゃらに突き進むだけが全てではない。進む以上に勇気がいる、ある種アクロバティックな選択。行動を起こすには、鋭く広がりある視線が必要、と改めて感じた。グエムルで国家を、本作で世界を手玉に取ったポン•ジュノ監督。次なる獲物は、宇宙かもしれない。

cma
〜〜〜
「スノーピアサー」Snowpiercer、2013年、韓国・アメリカ・フランス合作
監督:ポン・ジュノ
製作:パク・チャヌク、イ・テフン
原作:ジャン=マルク・ロシェット、
ベンジャミン・ルグラン、ジャック・ロブ
脚本:ポン・ジュノ、ケリー・マスターソン
出演:クリス・エバンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、ジェイミー・ベル、オクタビア・スペンサー、ユエン・ブレムナー、
コ・アソン、ジョン・ハート、エド・ハリス、アリソン・ピル




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2014年01月23日

笑いに逃げない駆け引きの面白さ

笑いに逃げない駆け引きの面白さ
(永井聡監督「ジャッジ!」)

押しの強い予告とポスターから、ドタバタ騒々しいコメディをイメージしていました…が。観てみたら、(意外にも?)なかなか良い話。笑いに逃げない、しっかりしたつくりでした。
もちろん笑いのツボはあちこちに仕込んでありますが、キレがよく、嫌みやしつこさはありません。そして何と言っても、曲者揃いの審査員が繰り広げる、先の見えない駆け引きがおもしろい! …ふと「12人の優しい日本人」を思い起こしました。そういえば、トヨエツさんは両方出ています。加えて、「12人…」を書いた三谷幸喜さんの新作は、妻夫木さんや京香さんが出ている、そのものスバリの「清須会議」。…本作は、密室での会話劇を得意とする三谷さんが、くやしがる•うらやましがる作品かもしれません。
最初は奇抜、突飛と思われた伏線が、ぴたりぴたりとハマっていく気持ちよさ! これは、ありそうでなかなかない、と思います。やりすぎ!でもなく、…わかる人だけわかればいい…でもなく。すべての人に届けるのが使命、のCMスピリットのなせる技、でしょうか。脚本の澤本さん曰く、トンデモな設定のあれこれは「ホント5割でウソ7割」とのことですが…「ベタだなー」と感じるものこそホントなのかも、と思いました。
そして、本作の目玉である豪華キャストにも仕掛けが? (個人的には、トヨエツさんのクールな秘書を演じた玄里さんが発見!でした。今後も楽しみです。)新井浩文さんの役どころが青森出身→○;実際も青森、鈴木京香さんの役も青森出身→×;本当は宮城、なんていう僅かなズレ。こんな細かいところまでこだわっているのか…⁈ 思い返すにつけ、そうか、ほおーと感心したり、ふむふむ、なるほど、とニヤリとしたり。日常に戻っても、発見と楽しさが続いています。
そんな中、気になったのは、サンタモニカに持ち込んだ山ほどのちくわは腐らなかったのか、という謎。…とはいえ、これも、ホントの類いなのかもしれません(恐るべし!) 。また、エンドロールに「ペン回し協会」が協力としてクレジットされていたのもおおっ!でした。ちゃんとあるんですねー、協会。それならば「ちくわ笛協会」はなかったのか…かえすがえすも残念です。
本作から得られた教訓は、ずばり「国際会議で必要なのは、英語力よりペン回し力」! さあ、ペン回しの練習開始だ! …今のところ、国際会議出席の予定はありませんが。

cma

〜〜〜
「ジャッジ!」2013年、日本
監督:永井聡
脚本:澤本嘉光
主題歌:サカナクション
出演:妻夫木聡、北川景子、リリー・フランキー、鈴木京香、豊川悦司、荒川良々、玉山鉄二、玄里、田中要次



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2013年12月17日

捨丸の存在が光る、圧巻の竹取物語(高畑勲監督「かぐや姫の物語」)

捨丸の存在が光る、圧巻の竹取物語(高畑勲監督「かぐや姫の物語」)

最初に惹かれたのは、予告で目にした、みずみずしく躍動的な画の美しさ。本編はもちろん期待以上に素晴らしく、最初から最後まで存分に堪能した。とはいえ、それ以上に心を揺さぶられたのは、物語そのもの。これまで様々な形で表現されてきた「竹取物語」の中で最高であり、今後も、これを超えるものはまず出ない、と思う。
何と言っても、姫の性格付けに説得力があり、魅力的。これまでのものは、求婚者たちの生き生きとした人間くさい立ち振る舞いに比べ、姫や帝の描写が控えめすぎたり踏み込みすぎたり。たとえば、求婚者を振り回す姫も、姫と帝の淡い恋模様も、どうもしっくりこなかった。何より、主役の姫が脇役より魅力を欠くなんて! 一方、本作の姫は血が通った人間(地球人ではないけれど)であり、生きる活力そのもの。スクリーンを所狭しと跳ね回り、喜びも悲しみも身体いっぱいに表現する。だからこそ、そんな彼女の真の姿を知らずに、うわべだけで求婚する輩の浅はかさが際立ち、「姫君」の枠に押し込められる彼女の息苦しさと孤独が、観る者の胸に強く迫る。
そして、オリジナルキャラクター•捨丸の存在。都へ移り住んでも草木やケモノと生きる「人間らしい暮らし」への愛着を忘れず、姫を支え続ける媼以上に、彼女に近しい存在=心惹かれた地球人として、彼を登場させた点が成功している。彼は、ごく当たり前に自然の中で生き、理屈や損得にとらわれず直感的に振る舞う。山での生活=捨丸たちとの伸びやかな日々が丁寧に描かれている分、都での生活に苦しみながらも、姫が月に帰りたがらなかったわけが、ストンと腑に落ちた。
圧巻は、捨丸と姫の、最後の再会の場面。分別をあっさりと脱ぎ捨てて感情に流れ、躍動してしまう地球人のもろさにして最大の魅力…を、視覚で表現しきっていてぞくりとした。大小様々な物事から喜び悲しみを見出す心の豊かさはもちろん、こずるさも、愚かさも、弱さも…全部ひっくるめて、姫が愛した地球人の姿なのだ、と改めて気付かされた。同時に、人間らしく生きるには、草木や他の生き物と共に生きる、手ごたえのある生き方(『天空の城ラピュタ』の「土から離れず生きる」にも繋がる)が必要なのだ、とも。
観終えて数日…幾度となく本作を思い返すうちに、あの激情と至福に包まれた二人の姿は、姫の視点ではなく、捨丸のものかもしれない、と思い当たった。とはいえ、平安時代の人々は、誰かが夢に出てくるのは、自分が強く想ったからではなく、相手が自分を想っている証、と考えたという。とすれば、捨丸の体験は、姫の強い想いが生み出したもの、となる。あの再会は、引き離された二人の想いが、偶然と必然のはざまで重なりあった瞬間の、美しくも恐ろしい奇跡(または月世界の情け)と思いたい。

cma

〜〜〜
「かぐや姫の物語」、2013年、日本
監督•原案:高畑勲
製作:氏家齊一郎
企画:鈴木敏夫
脚本:高畑勲、坂口理子
音楽:久石譲
主題歌:二階堂和美
出演:朝倉あき、高良健吾、地井武男
、宮本信子、高畑淳子、田畑智子、
仲代達矢





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2013年10月04日

主役は、こども(是枝裕和監督「そして父になる」)

主役は、こども(是枝裕和監督「そして父になる」)
カメラが引いて遠景になり、エンドロールが流れ始めた時、「なるほど」という納得と、「え」という物足りなさがあった。是枝作品と思えば納得の幕切れ。とはいえ、もっと先まで見届けたい、という物足りなさも。それは、映画が進むにつれて彼らを身近に感じるようになり、そんな彼らに、突然別れを告げられた錯覚に陥ったせいかもしれない。
福山雅治演じるエリート・野々宮が、初めて負けを知る話。観終えた直後は、そう思っていた。けれども数日経った今は、むしろ、子どもたちをめぐるあれこれが瑞々しく思い出される。少し意地悪くいえば、二ノ宮の物語はありきたりだ。社会的には完璧な勝者だが、家庭の中では精彩を欠き、我が子とどう付き合えばよいのか図り兼ねている。いや、妻や両親とさえも、ぎこちない関わりしか持てないのだ。そんな彼の変化は確かに丁寧に描かれており、じわりじわりと観る者の胸をしめつける。けれども、二ノ宮だけに焦点を当てるのは片手落ちではないか。確かに最も大きな変化が生まれるのは彼だが、危うさを抱えながらも、表面は明るくお調子者の斎木(演じるはリリー・フランキー)側の物語も見たい、と思った。もちろん、セリフの端々や立ち振る舞い、住まいの様子から伺えるものは多々ある。それでもなお、もう一人の父である彼を、もっとくっきり描いてほしかった。そこが少々物足りない。
一方子どもたちは、とにかく素晴らしく、忘れ難い。「誰も知らない」のきょうだいたちや「奇跡」の兄弟を彷彿とさせる。
子どもの頃、よそのウチヘ行くことは、楽しみであると同時にスリリングでもあった。自家での当たり前が通用せず、別の当たり前が横行している驚きと不思議。ありきたりの日常生活が、宝探しになる。
よそのウチがうらやましい、大丸1大丸1️ちゃんちならこうなのに、などとぼやきながらも、自家のルールに戻ってくる安心感。しかし、取り違えられた彼らは、そんな窮屈な安堵に戻れない。新たな当たり前の中に、突如居残りを告げられるのだ。このままなのだと分かったとき、期間限定ゆえのキラキラはあっという間に色褪せ、宝探しのワクワクは不安へと一変したはず。けれども、彼らは泣いたりわめいたりしない。そんな一過性のことをしても無駄だと、瞬時に悟ったのだ。そして、自分なりの方法で折り合いをつけていこうとする。その姿は、健気とかたくましいとかいじらしいとかいう、子ども向きの褒め言葉が似合わない。とにかく、圧倒されたというほかなく、身ぶるいを覚えた。
再び、エンドロール。ちょっと呆然としながらも音楽に心を鎮め、彼らのその後を慮った。家に入ったあとのやりとり、翌日、一週間後、数カ月後、一年後、十年後。成長に伴う困難ばかり思い浮かぶけれど、彼らはいつも・きっと幸せなはず、と願いを込めて思った。

cma

〜〜〜
「そして父になる」2013年、日本
監督・脚本:是枝裕和
製作:亀山千広、畠中達郎、依田巽
出演:福山雅治、尾野真千子、真木よう子、リリー・フランキー
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