2013年05月13日

愚かさの意味(セドリック・カーン監督「よりよき人生」)

ああ、この物語はどこにたどり着くのだろう…。途中から、ハラハラというより暗澹たる気持ちになった。レストランの開業という夢の実現に燃える主人公は、あれよあれよと借金にまみれ、次々に拠りどころを失っていく。出口は見えない。後半で挽回し、鮮やかな逆転劇に持っていくには、あまりにハードルが高すぎる。彼にどんな悲劇が待っているのか。もしや、野たれ死にか。そんな気持ちが膨らみきったところで…鮮やかに裏切られた。そうくるか、というふんわりした幕切れ。思わず顔の筋肉が緩んだ。
彼と行動を共にする、9歳になる恋人の息子が、またいい。けなげでも賢くもない、むしろ愚かな子ども。生活苦を察していながら、クレープを食べたがったり、高い靴を万引きしたり。挙句に、生活費半月分の靴を買い取るハメになった男が、やっとの思いで整えた食事を、怒り任せにテーブルから払いのけてしまう。
そんな子どもを、男は放り出そうとしない。頑なに、繋いだ手を離さない。なぜそこまで…なんと愚かな! しかし次第に、揶揄のはずの「愚かさ」が、不思議なぬくもりと輝きを放ち出すのだ。
前進するはずの主人公は、結局は後退したのかもしれない。得るより多くを失い、取り返すことすらできていないのかもしれない。問題はまだまだ山積みだ。それでも彼は、物語のはじまりよりずっとしっかりと地に足をつけ、広がりある世界を捉えている。そんな物語を、私は好む。

cma

〜〜〜
「よりよき人生」:Une vie meilleure、2011年、フランス
監督:セドリック・カーン
脚本:セドリック・カーン、カトリーヌ・パイエ
出演:ギョーム・カネ、レイラ・ベクティ、スリマン・ケタビ、ブリジット・シィ
※第24回東京国際映画祭コンペティション部門出品(映画祭上映時タイトル「より良き人生」)


posted by staff at 20:52| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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