2007年06月19日

平成の見物小屋〜「狼少女」への扉

見物小屋は「みせもの・ごや」と読む。「けんぶつ・ごや」ではない。
今年の浴衣deシネマで上映する「狼少女」の舞台は昭和。小さな街に見物小屋がやってくることから、物語ははじまる。
実は、私が見物小屋に初めて足を踏み入れたのは、社会人となってからだ。職場の人に、地元でやっているお祭りをひやかしに行こうと誘われた。「見物小屋もくるんだよ!」とワクワクした調子で言われたときは、正直たじろいだ。
「…み、見せ物小屋…?!」
私にとって、「見せ物」は正面きって口にするのははばかれる、「差別用語」「放送禁止用語」的ひびきがあった。でも、その場にいる人たちは「子供だましだよなー」「今どき見せ物小屋かよ!」などと言いつつも楽しそうにしている。私は動揺を見せまいとして、あいまいに調子を合わせた。どきどきした。
そして日が暮れ、神社は提灯のあかりで彩られた。いつもはひっそりとした佇まいの境内に、突如「それ」はあった。急ごしらえにしては不釣り合いに大きな建物に、わらわらと人だかりがしていた。
その見せ物小屋いちばんの呼び物は、「蛇娘」だった。
へびむすめ?
とっさに浮かんだのは、ろくろ首のような首の長い少女。しかし、呼び込みによれば、蛇娘とは、油が大好きで舌が長い娘らしい。蛇って油が好きなのか?落語に油好きのお化けの噺はあったような気がするけれど…と、つっこみを入れつつも、内心はびくびくしていた。小さいころは、幽霊屋敷にも入れない極度の怖がりだった私。大丈夫だろうか…と、不安がよぎった。
見せ物小屋のシステムは、かなりおおざっぱだ。入り口近くでお金を払い、中に入る。チケットはなし。だから、その気になれば潜り込めなくもない。…しかし。そんな不心得者には、容赦ない怒号が飛ぶ。「そこそこっ!カネ払ったんか!?ズルするな!」臆病風に吹かれつつある私は、それだけでどきりとした。否応なしに緊迫する空気…。
横断幕のような間仕切り布をくぐると、中は大入り満員だった。大仰な口上で、出し物が始まる。…実物は、さすがに(テレビや何やらであれこれ見聞きしすぎている私たちとっては)見劣りする。「蛇娘」も、「娘」はおろか、「おねえさん」という形容さえきびしい年齢に見えた。「毎年この人なんだよ」と先輩に教えられた。
ふーん、そうか。やっぱり、そういうものなのか…。
安堵から余裕が出始めた私の目に、ある光景が飛び込んできた。おかげで、一気に形勢は逆転した。
そこにいたのは、全身に恐怖をみなぎらせ、涙目で父親の服をぎゅっとにぎりしめている子どもだった。お祭りの浮かれた雰囲気の中、真剣におびえている子どもは、くっきりと異質な空気をまとっていた。はっとして見回すと、あちこちに似たような子どもがいた。
すごい。
ここまで生々しく、強い感情を呼びおこされる体験は、今どき貴重かもしれない。絵空事じゃないんだ。きっとこの体験は、強烈にこの子たちの記憶に刻まれる…。そう思ったとき、恐怖ではない「ぞくりとした興奮」が、私に訪れた。なぜ見せ物小屋か。その謎が解けた気がした。

さらに、衝撃。
祭が終わった次の日、ふらりと通りがかった神社は、何事もなかったように、簡素でひっそりとしていた。見せ物小屋を思わせる痕跡は、何ひとつ残されていなかった。
あれは、夢か、幻か?
ここに昨日の子どもたちが来たら、どう感じるだろう?衝撃か、恐怖か…。呆然としながら、つらつら考えた。
日常に混在する非日常を、あれほど強く実感したことはない。

後で聞いた話によると、私が目撃した見せ物小屋は、日本に残る希少数な見せ物小屋だったらしい。あの「蛇娘のおねえさん」は、とうとう最近引退したという。
…と教えてくれたのは、偶然にも劇場に訪れていた「狼少女」の深川監督その人だ。監督は、映画づくりのため、蛇娘のおねえさんたちにも取材したのだ。映画の神様が引き合わせくれた、不思議な巡り合わせ。「狼少女」の味わいがさらに深まった。

………
是非あなたも、貴重な見せ物小屋体験を、スクリーンで果たしてください。
8月あたまの「浴衣deシネマ」、御来場を心からお待ちしています。
(「狼少女」劇中の見せ物小屋は、私が出会ったもの程どぎつく恐ろくはありません。どうぞ、お子さんも安心してお連れくださいませm(__)m)

cma
posted by staff at 21:36| Comment(1) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Posted by cma at 2007年06月24日 10:06
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Tracked: 2007-07-24 12:00
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