裕福なイタリア人夫婦に買われ、養子となることが決まった6歳の少年・ワーニャ。必死で字を学び、実の母の手がかりとなる書類を手に入れ、孤児院を抜け出す。物語前半に繰り広げられる逃避行は、のうのうと・高見の見物を決め込んでいたはずの観客(私だ)を、ぐいぐいと惹きつける。いつしか、かたずを呑んで観入ってしまう。
危なげであったはずの彼の足取りは、いつしか「逃げる」から「進む」ものに転じていく。あどけないばかりであった彼が、次第に、たくましく、力強い表情を見せ始める。…そう、母探しの物語は、極上のロードムービーでもあるのだ。
そんな彼が出会う人々も、あくまで「脇」に徹しながら、いずれも忘れ難い印象を残す。彼らの佇まいが、十分にそれぞれの物語を示し、幾重もの光となってワーニャの物語を支えているのだ。養子になり損ねたまま歳を重ね、徒党を組み悪行を繰り返して生きている少年たち。少女は売春で身を立てているが、少年たちはおろか、院長さえ黙認している。売買の先棒を担ぐ院長、仲介人の女とその運転手、ワーニャが旅で出会う大人たち。…表面的な善悪の差こそあれ、彼らは精一杯生きている。余裕はないけれど、あきらめていない。だからこそ、なりふりかまわず、それぞれの道をゆく。
…ワーニャの物語に戻ろう。軟弱な観客(私だ)は、幕切れが近づくにつれ、涙を絞るほどの大仰なクライマックスであっても喜んで受け入れよう、などと気に迷いが生じ始めた。お涙頂戴、大いにけっこう!ワーニャは本当によく頑張った、報われて当然!と。…しかし。映画の「眼」は、最後までくもり揺らぐことなく、少年の物語を描ききった(抑制のきいた語り口は、なんと能弁なのだろう!)。ワーニャの未来は、決してばら色ではない。けれども・だからこそ、「そこ」に至るまでに様々な人々が垣間見せたあたたかさがいつまでも温もりとして残る。そして、旅の中で、自らの意志で進むことを知った少年に、一筋の希望を見いださずにはいられない。
cma
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「この道は母へと続く」
監督:アンドレイ・クラフチューク
脚本:アンドレイ・ロマーノフ
出演:コーリャ・スピリドノフ
※2005年ベルリン国際映画祭少年映画部門グランプリ

